「うちのおばあちゃん、認知症かも…」
「物忘れ」は、認知症かも?と疑うきっかけになりやすい困り事のひとつです。
(中核症状のひとつ、と言います)
「ついさっきの事を覚えてない」
「朝食を食べていない!と何度も言う」
「鍋を火にかけっぱなしにして出かけてしまう」
こんな事が度々起きては、家族としては心配でなりませんよね。
じぞうは元利用者家族だけど、そういうことはあったの?
ヤカンの空焚きが続いた時に、
「あぁ、ばあちゃん認知症なんだな」って実感したなぁ。
一緒に住んでいる孫なのに「知らない子がいるわ…」と言われたときのショックは今でも忘れません。
「大事なことを忘れてしまう」=「記憶がなくなってしまう」と考えてしまいがちですが、
脳と記憶の関係を探ると、どうもそうではないようです。
今回は、脳科学の知識をお借りして「物忘れ」の正体を解説します。
アルツハイマー型認知症と海馬
まずは認知症について、軽くおさらいしてみましょう。
ひと口に認知症と言っても、「脳血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」など、いくつも種類があります。
ですが、多くの場合「認知症」→「アルツハイマー型認知症」という文脈で語られます。
アルツハイマー型認知症の患者は、認知症全体の67%超を占めます。
また、一番のリスクファクターが「加齢」であるため、誰でもなりうる病気であるといえます。
では、アルツハイマー型認知症(以下、認知症)になると、どんな事が起こるのか?
脳内の出来事に焦点を当てたフローを見てみましょう。
認知症が脳に与える影響は、ザックリいうとこんな感じ。
脳に粗大ゴミが溜まってしまうのは誰でも同じなのですが、
「ゴミ出しが上手くできなくなってしまい、脳の機能に支障が出てくるのが認知症」
という訳ですね。
アルツハイマー型認知症では、初期段階で脳の「海馬」という部位がダメージがを受ける、というのが今後の話のキモとなりますので、ぜひ覚えておいてください。
海馬は記憶のハードディスク…ではない!
脳科学に関する話題や、脳トレについて取り上げたTV番組なんかでも「海馬」という名前はよく出てくるんじゃないかと思います。
「海馬は記憶の中枢」とかいうよね。
なんとなく大事そうなのはわかる。
そのため、「記憶の貯蔵庫」みたいなイメージで捉えている人も多いかもしれませんが、海馬はハードディスクとは違います。
記憶が保存されるのは「大脳皮質」と呼ばれる部位で、これが丁度ハードディスクみたいな役割を果たしています。
海馬は、この大脳皮質に記憶をセーブしたりロードしたりする部位なのです。
その海馬は、認知症になるとダメージを受ける…
なんとなく話の筋が見えてきたね。
次項では、そもそも「記憶」ってなんぞや?という話題から、いよいよ「物忘れ」の正体に迫ってみましょう!
「物忘れ」の仕組み
「記憶」という作業は、脳内で3つの段階を経て行われています。
記憶の3段階
①記銘 (エンコーディング)…人間の脳に合わせて情報を変換する(符号化)
②保持 (ストレージ) …情報を保存しておく
③想起 (リトリーブ) …情報を思い出す(再生、再認、再構築)
「記憶する」というと、①の記銘だけを思い浮かべがちですが、思い出せなければ有って無いようなものですもんね。
この記憶の3段階に、先ほどのハードディスクやら海馬やらの関係を当てはめてみましょう。
ご覧の通り、
①記銘と③想起は海馬の役割→認知症初期にダメージを受けやすい。
②保持は大脳皮質の役割 →認知症初期にダメージを受けにくい。
という事がわかります。
つまり、
認知症の「物忘れ」とは…
×「記憶そのものがなくなってしまう」
○「記憶のセーブ・ロードが上手くできなくなってしまう」
と理解する事ができます。
じぞうばあちゃんが「知らない子がいる…」って言ったのも、別にじぞうの存在が記憶から消えてしまった訳じゃないんだね。
当時は派手な格好ばっかしてたから、素で誰だかわからなかった説も、実はある…。
終わりに、「忘れる」のも大事かもしれない、という話
「思い出せなくても、別に記憶そのものが無くなった訳ではない(かも)」
とか言われても、あまり救いにはならないかも知れないし、自分や肉親がそうなったらショックですよね。
人間は「外部化した記憶から忘れていく」という事がわかっています。
旅先で素敵な景色に出会ったとして、①写真に撮るのと②眺めるだけでは、②の方が記憶に残りやすいのです。
なんだか「最強の効率厨」って感じもしますが、
「歳をとる過程で色んなことを覚えては人に話して、ピークを過ぎたら手放していく。」
なんて考えたら、「物忘れ」は老いていく準備のような気もしてきます。
「物忘れ」は誰にでも起こりうること。
上手に付き合うことで、自分が衰えていく心の準備ができるのかな、なんて思います。
介護職としては、お年寄りたちの話をたくさん聞いてあげなきゃ、とか思いました。
コメント